実録!食を切り口とした集客事例

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全国からお客を引き寄せる 呼子のイカの魅力とは?

2012/10/01

 「申し訳ないけどお客さんがいっぱいで、取材は勘弁してくれませんか?」。この夏、グルメ雑誌の仕事で取材を申し込んだ店から、そんなお断りの返事がきました。景気がいまひとつという世の中、無料で店のPRができるグルメ雑誌の取材は歓迎されることはあっても断られることは滅多にありません。
 さて、みなさん、いまどき取材の対応ができないほど繁盛している店ってどこだと思われます? 答えはイカの活造りで有名な老舗・河太郎さんです。でも、客足が落ち着いた9月にあらためて取材を申し込むと、快く応じていただき、ほっとしたのですが、そこで見たのは繁盛の秘密。なるほど、一人3000円近くもする料理なのにピーク時には行列ができる理由がよくわかったのです。
 呼子の桟橋近くに新店舗をかまえる河太郎呼子店。うかがったのは平日の午後3時でしたが、それでも店内はお客さんでいっぱいです。お店の方にごあいさつをして、さっそく取材開始。幸運にも、たまたま居合わせた初代料理長に話を聞くことができました。
 料理長によると、その昔、呼子にはたくさんイカが揚がるのにデリケートで痛みやすいため生きたまま遠くへ運べず、消費が増えないという悩みがありました。それなら現地で食べてもらおうと、河太郎の社長が料理長とともに始めたのがイカの活造りだったそうです。昭和48年のことです。
 イカの活造りというと生のイカをさばいて出すだけの単純な料理のようですが、博多の割烹で腕を振るっていた料理長は食べやすさはもちろんのこと、見た目の美しさまで追求。試行錯誤を重ねて今のスタイルを編み出したそうです。こうして生まれた踊るイカは瞬く間に人気を呼び、ひとつ、またひとつと活造りのお店が増えていきました。
 そんな歴史を教えてもらいながら、今回、久しぶりに活造りを取材して実感したのは「臨場感」でした。海が見える店内には中央にどーんと生け簀があり、客席から元気よく泳ぐイカが見えます。そして、注文が入ると職人さんがそのイカを網ですくって厨房へと運んでいくのですが、その一連の光景からたったいま泳いでいたイカを本当に食べるのだという期待感が生まれます。そこへさほど待つ間もなく、さっきまで泳いでいたイカが美しい姿造りになって目の前に出されます。キラキラと輝き皿の上で踊るイカ。透明な身はコリッとした歯触りで、口の中に広がる甘みがたまりません。イカの刺身といえば白くてやわらかいというイメージを軽く覆すカルチャーショック。さらに、刺身で食べた後のゲソはいったん下げて天ぷらにしてくれるのですが、注文は1回しかしていないのに料理が2回来たようなお得感もあります。実はこれも初代料理長のアイデアなのだそうです。
 このように現地に来ることで味わえる臨場感、自然や港町の風情、そこに集まるイカや料理人が姿造りとして届けるまでのストーリーなどなど、さまざまな要素が重なり合って、お客さんは大いに満足し、少々お高くても何度でも呼子を訪れるのではないでしょうか。
 また、素晴らしいのは河太郎さんの姿勢。ノウハウを独占することなく惜しげもなく町全体で共有することで呼子を盛り上げていく道を選びました。これが多くのお客さんを迎えることにつながり、それがさらなるお客さんを呼ぶ流れになったわけです。
 ほんのちょっとした発想の転換、そしてそれを独占することなく、地域全体で共有しようという柔軟な考え。そこには商売繁盛のヒントがたくさんころがっているように思えました。
 河太郎のイカ活造り定食
河太郎のイカ活造り定食
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執筆担当:九州の取材.com(メニィデイズ)

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